◇唐組公演 「夕坂童子」を観に行く
2008-05-12



東京舞台通信 唐組「夕坂童子」唐十郎

唐組公演はここ数年毎年観ている。今年の演目は新作「夕坂童子」。鶯谷や入谷など東京の下町を舞台にした内容だった。

唐組を最初に観たときは、その内容の難解さにただただ役者陣の熱を帯びた演技に圧倒されるだけだったが、最近は無理に内容を理解しようとせずに観る方が楽しめるということに気づき、赤いテントの中で繰り広げられる汗とつばしぶきがライトに光る、観客と役者の熱が一体になった舞台が楽しみになっている。
最初の頃は水戸の公演を毎年観に行っていたのだが、つくばを離れてからは東京に行くようになった。花園神社に行くことが多いが、西新宿の原っぱで一度観たときは「こんな場所がまだこの新宿の高層ビルの間にあろうとは」と思えるような風景で、唐組の赤いテントがその場所に非常にマッチしていて不思議な感覚に襲われた。
今年の公演案内のはがきにこの西新宿の原っぱがなかったので不思議に思っていたが、後で旦那が「あの原っぱは何か建物が建つことが決まったらしいよ」と言っていて、もうあそこで唐組を観ることができないことを非常に残念に思う。

私が観に行くようになったのは、稲荷卓央と藤井由紀が主役をするようになってからである。当時一緒に行っていた友人は稲荷があまり好きではないようで、どうして彼が主役なのか疑問に思っていた様子だったが、個人的には脂の乗り切った鳥山や久保井、辻といった古参の役者陣がいい味を出していたし、良くも悪くも稲荷の汗まみれの演技をサポートしていて、私はその一体感が好きだった。ここ数年は稲荷の演技ものってきていて、藤井とのコンビも不動のものと思われていた。
数年前から丸山厚人と赤松由美が、主役の稲荷と藤井に続く準主役級の役どころを演じるようになり、この二人が登場した頃は細身の稲荷と藤井のコンビとは対照的な、肉感的な丸山と赤松の非常に熱く濃い演技にちょっとした違和感を覚えていたのだが、おととしあたりから特に丸山が良くなってきており、稲荷との熱い演技バトルが楽しみになっていていた。

今回とったチケットは10番台で、久しぶりに舞台から二列目に陣取る。「今年はどうか水がでませんように」と祈りつつも、何が舞台から飛んでくるかわからない危機感にわくわくして観るのも醍醐味のひとつなのだ。 実際、鳥山が便器(作り物)を洗ったたわしに水を含ませて客席にほとばしったときは、「きたきた」と思ったし、舞台袖から大きな水槽が出てきたときは、それが客席側にひっくり返されるのではないかと思って、前列がどよめいたりしたのだった。(過去公演で、実際役者がこの水槽に飛び込んだときに、大量の水があふれて客席に流れ込んだことも数回あった。水と一緒にビー玉が飛んできたこともある。舞台の端には客席の最前列の人がそれらを回避するため、ビニールシートが用意されており、最前列の観客が息を合わせてそれで防御する仕組みになっているのだが、最前列の客の息が合っていないと、二列目以降の客まで被害にあってしまうのだった。被害に合うのもまた一興なのだが、これを知っていて被害に合いたくない客は後ろの方に座りたがる傾向がある。今回私は二列目に座り、最前列が唐組ファンのおじさん達の様子だったのだが、舞台前挨拶でビニールシートの説明がされたとき「前のかたがたがんばってくださいね」と声をかけると、「俺たちちょっとひっかけているから、保障はできないけどがんばります」と答えてくれた。実際おじさんたちは、なかなかがんばってくれていたのだった。)


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